犬と猫の「美味しい」と感じる条件は?【獣医師監修】

犬や猫の祖先は、紀元前4000年前まで同じ「食肉目(ネコ目)」でした。その後、イヌ亜目・ネコ亜目に分かれ、それぞれの進化をしていきます。犬の仲間はアザラシやパンダ、クマなどで、魚を食べたり、笹を食べたり、どんぐりなどの木の実を食べたりする多様な食性の中に進化しました。一方で猫はライオンやチーター、トラなどの仲間の中で進化し厳格な肉食となりました。両者とも、人と一緒に生きてくれる姿の近いもの同士ですが、進化の過程から考えると、その食性はすいぶんと違うようです。

犬の生活と食べ物

犬の直属の祖先であるオオカミは、群れで生活する動物です。群れにはαオスとαメスが存在し、リーダーシップを取ります。彼らが中心となって狩りをし、群れの方向性や食事の優先順位を決めます。狩りは大きな労力を使い、いつ最適な獲物に出会えるかも分からないため、彼らはまとめて食事をとります。そして、貯蔵しておく習性もあります。これらの事が反映され、ワンちゃんたちは社会性があり、一気にまとめてゴハンを食べ、温かいゴハンも冷たいゴハンも好みます。

猫の生活と食べ物

猫の祖先は、基本的に単独で狩りをします。自分の体より小さいネズミなどの獲物を、一日に何回も狩って、その都度食べます。腐った肉を避けるために猫の舌にはヌクレオチドに敏感で、これを嫌う習性があります。これらの事から、猫は単独なわばり性で、一日のうち不定期に少量ずつゴハンを食べ、新鮮な温かいものを好みます。

それぞれの「食の好み」

犬は甘いものや高脂肪なもの、酸味のあるものを好み、苦みや高塩分を嫌います。猫は動物由来の脂肪分を特に好み、苦みや酸味、高塩分を嫌います。旨味を感じることが出来ますが、甘味を感じることはできません。猫ちゃんが「グルメ」と言われるのは、美味しいと感じるものの幅がかなり限られているからです。
猫は甘味を感じる機能がないだけではなく、炭水化物を処理する能力自体も弱い動物です。そのため「高血糖」になりやすく、肥満や糖尿病に配慮が必要です。

■生肉だけの食事はどうか?

結論から言うと、生肉を与えても良いがこれだけでは補えない栄養素もあります。特に猫はビタミンAやアラキドン酸、リノール酸、タウリン、アルギニンなどを食事から摂取する必要があります。単一の栄養源では過不足が生じる可能性が高く、嗜好品として楽しむのが無難です。また、生食には細菌の繁殖や寄生虫のリスクがあります。適切に処理されたものを選びましょう。

■穀物を含む食事は良くないのか?

猫は炭水化物の処理能力が低いので、取りすぎ注意と前述しました。その通りですが、一般のドライフードに含まれる炭水化物は「α化(アルファ化)」という処理をしています。きちんと消化できる形に加工されており、これらから供給される栄養素も重要な役割を果たします。あえて嫌う必要はありません。

自然界でも猫の祖先は「穀物倉庫」で「ネズミ捕り」の仕事をしていました。ネズミを食べる際、ネズミのお腹で消化された穀物も一緒に食べます。取りすぎ注意なだけで、食べられないわけではありません。

■グルテンフリーは体に良いか?

流行していますが、グルテンにアレルギー反応をもつ動物でなければ、あえて選ぶ必要はありません。そして特別ヘルシーなわけでもありません。人間の中にはグルテンの粒子に対して過敏な体質の方がいますが、それは動物の食物アレルギーも同じです。特にアレルギーが無い状態でグルテンを避けても、大きなメリットはありません。

グルテンフリーを否定するわけではありませんが、大切なのは「体質や体調に合うゴハンを食べること」です。嗜好性や製品特徴だけではなく、食べてみたあとの動物の体調やウンチの量などをよく観察して、ゴハン選びをしましょう。

■防腐剤は悪者か?

悪者になりやすい化学合成物質、防腐剤ですが、製品の品質を維持するために必要なものです。いくらドライフードが水分量を調整し、菌の繁殖がおこりにくいレシピで作られていても、時間とともに劣化します。気を付けていても、目に見えない微細なカビが繁殖することもあります。それが血液検査で肝数値をあげることも。

開封後、時間をかけて食べるものなので、防腐剤は必要です。それでも高温多湿を避け、1ー1.5カ月を目安に与えてあげましょう。

飼い主さんの手は特別!

私たちと暮らす動物は「幼形成熟」しています。成長が済んでも「幼いまま」という事です。彼らは無邪気で、何気ないことを喜んでくれます。私たちはそんな彼らへ愛情の一つとして、楽しみである「食」をより豊かにしてあげたいと思います。
食べ物を選ぶことは大切です。しかし、こだわるあまり、極端な情報に左右され過ぎないようにすることも、覚えておいてほしいのです。

大好きな飼い主さんの手から直接もらうゴハンは、とても特別です。たまには、ネットや成分表とにらめっこするのを止めて、時間をかけてゴハンを楽しみましょう。