【獣医師監修】犬と猫の「けいれん発作」
「発作」「痙攣」「失神」「ひきつけ」…みなさん、このような表現をされます。厳密にいうと、それぞれ言葉の意味がちがうのですが、みなさんにとって大事なのは、なぜおこったのか?どうしたらいいのか?ではないでしょうか。
発作中の痙攣には色々ある
発作は、脳の興奮でおこるとされています。私たちが活動するとき、手足を動かそうと「思った」ら、脳が「興奮」して、手足を動かすための「電気信号」を送ります。その信号を受け取った手足は、「動く」わけです。
発作は、動かそうと「思って」いなくても、脳が興奮して電気信号をおくり、結果「動いてしまう」状態です。脳のどの部分が興奮したかによって、意識のある・無し、動く場所、動き方が違います。
例えば、脳全体が興奮するような発作であれば、意識は無くなり倒れて手足をバタバタする、というような発作がおこります。脳の一部しか興奮しなければ、意識はある状態で顔の右側だけピクピクする、といった発作もあります。どちらもおなじように「発作」です。
発作の原因
発作の原因は、大きく3つに分かれます。①構造的てんかん、②反応性発作、③特発性てんかんです。
① 構造的てんかんとは、原因が脳神経の病気ということです。例えば脊髄の炎症だったり、脳腫瘍だったり。病気がきっかけになって、脳が興奮し、結果として発作が生じます。
② 反応性発作とは、血液中の原因物質が脳に流れることによって、または特定の栄養素が足りないなどでおこる発作です。末期の腎不全や低血糖など、病態は様々ですが、脳は正常です。
③ 特発性てんかんは、脳や体に異常がなくても、てんかん発作がみられます。遺伝性におこる場合と、原因不明な場合がこれに含まれます。
発作の診察では、何をするのか?
まずは反応性発作でないかの確認を血液検査で行います。問題がなければ、次は脳に異常があるかないかを区別する、という流れになります。
脳の検査に必要なものが、MRIと全身麻酔です。MRIは強い磁気を発生するため、特殊な施設が必要です。人では一般的ですが、動物病院にはこの施設が無い事がほとんどです。そのため、MRIを受けるために2次病院をご紹介する流れになります。
MRIは断面図を連続して撮影します。動かない状態でしか、画像として組み立てられないため、ほとんどの場合は全身麻酔が必要です。
また、麻酔をかけたタイミングで、背骨の隙間から針を入れて「脳脊髄液」を取ることがあります。脳脊髄に感染したウイルスがいないかの確認のための検査です。意識がある状態では出来ない検査なので、主治医から提案があった場合は検討してみましょう。
発作がおきたら?!
①まずは状況の確認を。
意識はあるのか?倒れてバタバタしているのか?粘膜の色や呼吸の様子は?可能なら、短くてもいいので動画を残しておきましょう。
発作を診断していくにあたって、大切なのは動物の様子です。「本当に発作なのか?」を区別しないと、次のステップにうつる事ができません。
②発作の前後の様子も分かれば尚良い
発作は長くても数分程度で収まる事が多いです。しかし、前発作・後発作といって、発作をおこす前後で涎が出る・ソワソワする・ぐるぐる回るなど、いつもと違う様子が観察されます。前発作~発作~後発作がおこり、しっかり落ち着くまで何分ほどかかったか、それも情報になります。
③すぐに触らないで!
発作を見たら驚いて、駆け寄って抱き起そうとしてしまいます。しかし、発作中は顎の緊張感が強く、無意識に咬んでしまったり、のけぞったタイミングで体をぶつけてしまったり、といったトラブルが起こりやすいです。すぐ触るのではなく、タオルや毛布などで体を保護し、発作中にケガをすることがないようにしましょう。
④動物病院へ連絡を
家族がいる場合は、一人が様子の観察をし、一人が動物病院へ連絡をしましょう。数分でおちつく発作であれば、落ち着いたタイミングで来院してください。後発作が続いているときは、次の発作が起こりやすいタイミングです。後発作中に動物をさらに興奮させるような移動は控えた方が無難です。(※ただし、後述する「重責している場合」は待っても発作は落ち着かないため、連絡が取れ次第、移動してください)
「重責発作」がおきているときは、緊急で!
発作は波のように繰り返すことがあります。「波の高さが、防波堤を超えたら痙攣発作がおこる」とイメージしてください。
基本的には一回防波堤を超えたあと、波は少しずつ静かになります。しかし、波が荒ぶって繰り返し防波堤を超える事があります。これを重責発作といいます。発作が単発で落ち着かず、何度も繰り返すおこるとき・20分以上続いているときは、発作を落ち着かせるための薬剤が必要です。動物病院へ運びましょう!
可能なら、普段の体重や基礎疾患、予防歴を把握しているかかりつけの病院が望ましいですが、閉まっているときは救急病院へ急ぎましょう。
重責発作では無意識に体の筋肉が動き続けるので、体温が上がりやすく、脳は酸欠になりやすいです。病院へいく途中、2人以上人がいる場合は、運転席以外の方が「熱中症にならないよう体を冷やす」「首が曲がった姿勢のままで息苦しくなっていないか様子を見て、呼吸しやすくしてあげる」などの配慮をお願いします。
発作の治療
反応性発作では、原因となる基礎疾患や中毒物質があるはずです。取り除いたり、治療したりして完治出来るものであれば、こちらの治療を行います。
構造性てんかんは治療が困難な場合も多いですが、これも根治や緩解に持ち込めるケースであれば、その病気自体の治療をします。
特発性てんかんの場合は、①6カ月に2回以上の発作があるとき、②重責発作がおこったとき、「抗てんかん薬」を飲み始めるタイミングになります。また、構造性てんかんで、病気自体を取り除くことが困難な場合は、同様のお薬を使用します。
「抗てんかん薬」とは、残念ながら発作を起こらなくする薬ではありません。発作を起こりにくくするお薬です。
前述の発作を波に例えた場合でいうと、波が防波堤を越えないように、防波堤を高くする働きをするのが「抗てんかん薬」です。
抗てんかん薬はいくつか種類があり、何種類か併用することもあれば、単剤を服用することもあります。また、飲み始めから十分な効果を発揮するまでに、時間のかかる薬もあるため、飲み始めてすぐは発作がおこることもあります。
徐々に効くようになりますが、飲み忘れや休薬の際には発作がおこることもあります。
抗てんかん薬は神経を落ち着かせるお薬です。飲み始めは眠気が強くでることがありますが、次第に馴染むと落ち着きます。
抗てんかん薬とは別に、「発作止めのお薬」を処方されることがあります。抗てんかん薬が効き始めるまでの間に、発作がおきたら使用します。発作中は意識が無くなることもあるため、多くは座薬などの剤形で処方されます。発作がおこり、座薬で対応しても落ち着きが悪い場合は、動物病院に向かってください。
発作は見た目がとても激しい場合もあるため、初めて見たら動揺してしまいますよね。
もちろんご家族や誰かと一緒にいるときであれば、心強いです。
しかし、一人で対応しないといけない場合もあります。一番大切なのは、動物も人も2次的に怪我をしないことです。「発作中に動物が足を引っかけて脱臼した」とか、「慌てて抱き起そうとしたら、反射的に歯が刺さり人が怪我をした」とか、「急いで病院へと焦って、車で事故をした」という状況は避けたいところです。
まずは毛布などで包み、動物と人の安全を守ります。その後落ち着いてきたら、病院を探す・移動するという流れにしてください。移動中はキャリーや段ボールなどで固定し、転げ落ちないようにします。車中で発作が起きたときは、必ず停車して状態確認をしてください。
当たり前なことですが、焦っているときほど冷静な対処は難しいことです。しかし、動物病院で発作を診断することは、決して稀なケースではありません。
このコラムがどうか、いつかの備えとして皆さんにお役立ていただけることを祈っています。