動物の「麻酔」って本当に危険なの?【獣医師監修】

動物病院に行って、「麻酔」やら「鎮静」やら聞くとちょっとビクッとしますよね。
もちろん、珍しいものではないですが、確かに飼い主様が恐れるリスクのあるものではあります。
ただ、獣医師から麻酔等の相談をさせていただく場合は、麻酔を使用して治療することにメリットがあるからです。
そこで、よくわからない「麻酔」について書いていきます。

そもそも麻酔とは何ぞや

麻酔というのは簡単にいうと眠らせたりぼんやりさせることをいいます。
例えば人間でイメージすると、メスを入れたりするのはもちろん、内視鏡検査等も人によっては痛みを感じるでしょう。
そんな時に痛みを感じにくくしたり、暴れてしまうのを防止したり、手術を安全に、患者さんのストレスを低減できるように行うものです。
わんちゃんや猫ちゃん、動物達でも同様です。

猫ちゃんの飼い主様なんかは、動物病院で暴れてしまった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
動物達からすると動物病院に行く理由もわかりませんし、仮に治療の必要な病気を持っていてもその必要性を理解してくれません。
ただ痛いことをされたりする嫌な場所だと思っている子も多いでしょう。
だから、どうしても麻酔やら鎮静やらが必要なタイミングが出てきます。

麻酔のリスク

ご認識の通り麻酔のリスクはあります。
特に高齢の動物や持病のある子ではリスクも大きくなることがあります。
具体的なリスクは、肝臓や腎臓等の機能の低下、心不全や呼吸困難等です。
実際に麻酔関連で死亡したと思われるケースもあるのが事実です。

それでも麻酔をする?

前述のようなリスクがあっても麻酔は必要です。
なぜなら、麻酔には以下のようなメリットもあるからです。

動物のストレス・痛みの低減

例えば麻酔なしに手術なんてありえませんよね。
想像を絶する痛みを動物に与えてしまう事になります。
ショック死する可能性も否定できません。

正確かつ安全な検査・治療の為

動物は獣医師が行っていることを理解してくれませんので、どうしてもじっとしてはくれません。
歯石取りでイメージすればわかりやすいですが、ハミガキですらじっとしてもらえないのに歯が完璧にキレイになるまで待ってくれるわけないですよね。
しかも動いた拍子に歯石というバイキンの塊を飲み込んでしまったり、口の中を傷つけてしまう恐れもあります。
無麻酔スケーリングという恐ろしいことをやっている人もいますが、麻酔下でやることが原則なのは理由があります。

※そもそも獣医師以外がスケーラーという歯石取りの器具を使って動物の歯石除去を行うことは逮捕者も出ている明確な違法行為です。
歯石除去は必ず動物病院で行ってください。

ほんとのところ、麻酔はどのくらい怖い?

ここまで話してきた通り麻酔にはリスクがあります。
絶対安全なものではありません。
ただ、必要な場合もあります。
どうすればいいのか。

動物病院では、できる限りリスクを低減できるように考えています。
例えば、下記のようなことです。

術前検査を行う

手術の前に、血液検査やレントゲン、エコー等を実施して動物の状態を確認します。
検査の結果、麻酔のリスクが治療のメリットより大きいと判断した場合は中止することもあります。

麻酔中もきちんと管理する

動物用の生体情報モニタという機械があります。
この機械を使用し、心拍や酸素等の状態を管理しています。
よく医療ドラマにある脈とってる機械みたいなイメージです。
もちろん、手術が終わってはい終わり、ではなく動物達が覚醒して「もう大丈夫だな」と思えるまでしっかり管理を継続します。

どこの動物病院でも基本的に上記のほか、定期的な知識のアップデート等リスクを最低限に抑えられる努力をしています。
その結果として死亡数は減少傾向のようで、特にわんちゃん猫ちゃんの麻酔関連死は全身麻酔で0.5%以下です。

※ここではざっくり書いてますが、鳥取大学さんの詳しい資料がインターネット検索で出てきます。よければ検索してみてください。)

ウサギさんや鳥等では犬猫と比較し、やや死亡率もあがりますので、日常的に診察している病院をかかりつけにしておくのが飼い主様ができるリスクヘッジかもしれません。

ちなみにここまで主に全身麻酔のことを書いています。
局所麻酔(特定の場所だけ感覚を鈍くする)で対応することもあります。
呼吸等に影響を与えないことが殆どですので、局所麻酔の方がリスクは低いです。
(リスクゼロとはいいません。念のため。)

最後に

はっきり言ってしまえば麻酔なんてしなくて済む方がいいです。
もっというといわゆる「薬」なんてすべからく副作用もある訳ですから、使わないに越したことはないのです。
ただ、それでも健康になるために、長生きするために使わないといけないこともあります。
獣医師からのご提案は治療のリスクとメリットをきちんと比較して、考えてベストだと思う選択肢をお伝えしています。
ここをまず、ご理解いただけると嬉しいです。

そして、人の病院と動物病院との一番大きな違いですが、動物病院の患者さんは治療方針を理解してくれません。
だからこそ動物病院と飼い主様が一丸となって、その子のために一番いい選択肢を考えてあげる必要があります。
その為のコミュニケーションを動物病院は惜しみません。
麻酔の不安、悩みも含め何かあれば是非、抱え込むことなくお気軽にご相談ください。