【獣医師解説】各社療法食の違い。ロイヤルカナン・ヒルズ、どれを選べば?
動物病院にかかると療法食という特殊なペットフードをお勧めされることがあります。
もちろん獣医師から勧められた療法食を使用することが一番ですが、「療法食」でインターネットを検索すると非常にたくさんの療法食があり、食べなかった時等他のものも気になりますよね。
そこで、療法食の基本から、各社の違いまで解説していきたいと思います。
療法食とは?
特定の病気(尿石症とか、アレルギーとか)や特定の健康状態(避妊去勢後とか、シニアとか)にある状態の犬猫(一部ウサギなんかも最近はありますね。)に対して食事療法に利用するペットフードのことです。
例えばアレルギーであればアレルギーの原因物質(アレルゲン)となり得るものをできるだけ排除して作ったり、避妊去勢後であれば太りやすくなるので低カロリー設計にするなどしています。
療法食の種類
正式な分類ではないのですが、療法食はざっくり二種類あると思っています。
動物病院で使用される療法食と、動物病院では使用されない療法食です。
内容的な差異がある訳ではないのですが、恐らく動物病院で使用されないタイプは総合栄養食*としての栄養基準を満たすものが多いのではと考えています。
(網羅的にチェックした訳ではありません。個々の商品についてはメーカーにご確認ください。)
*水とそのフードだけで健康に必要な栄養を補給できるペットフード
では動物病院で使用されるペットフードは栄養が不足しているのか、という不安も出てきたかもしれません。
確かに一部総合栄養食としての基準を満たさないものがあります。
ですが、そもそもそれをお勧めする動物さんは獣医師の管理のもと、特定の栄養を制限する必要があるのでそれでいいのです。
というかその方がいいのです。
ちなみに当院のグループ院であるファミリー動物病院も療法食を作っています。
療法食とは言っても、ライフステージに合わせた病気予防の位置づけなので、普段のフードとして使用できます。
院内にも置いております。
動物病院向け療法食メーカーとそれぞれの特徴
個人の主観が多大に入っておりますが、各社の印象は下記の通りです。
特定のメーカーを宣伝する意思はなく、どこかを貶める意図もありませんので、その点ご理解のほどよろしくお願いいたします。
また、ほぼすべてのメーカーさんが総合栄養食も取り扱っていると思います。
病院によって取り扱っていないものもあると思うので、基本的には獣医師さんのアドバイスのあったものを使い、食べなければ各社の商品を聞いてみるといいかもしれません。
1.ヒルズ プリスクリプションダイエット
(日本ヒルズ・コルゲート社)
サイエンスダイエットでおなじみ。
療法食の元祖というべきフードで、長年の実績、エビデンスをもっています。
また、世界的にはトップシェアだそうで。
以前は食いつきがよくない印象もありましたが、随分改善しているので、獣医師が一番最初にお勧めするフードであることが多いです。
t/dのように歯を対象にした療法食など独自のものもあり、おそらく最も多彩なラインナップがあるのではないでしょうか。
どこの動物病院でもほぼ取扱いがあり、サンプルも豊富にあるのはメリットです。
また、最近総合栄養食でも療法食に近い「ベット・エッセンシャル」というシリーズを出されました。
2.ロイヤルカナンベテリナリーダイエット
(ロイヤルカナン社)
ロイヤルカナンもご存知の方が多いでしょう。
恐らく日本では現状シェアトップです。
こちらもおそらくどこの動物病院でも取扱いがあり、サンプルも豊富にあるので、ヒルズと一緒にサンプルをもらうことも多いかも。
動物さんが食べた方で続けましょうというような決め方がよくあります。
ヒルズとほぼ同じラインナップの多彩さがあり、こちらも長年のエビデンスがあるので信頼のおけるメーカーです。
最近大きな流通変更をし、一般販売も解禁されたものの、購入にあたってはやや手間がかかる印象です。
とはいえ、ヒルズもそうなのですが愛用者が多いということは突然終売の可能性も低いでしょうから使い続けるのは安心です。
3.ドクターズケア
(ペットライン社)
三菱商事グループの会社さんで一番の特徴は国産です。
以前はちょっと高くて使いにくかったのですが、国産のため昨今の為替の影響をあんまり受けず結果的にお安くなりました。
ラインナップは上記2社と比べるとどこのメーカーもかなり少なく、ドクターズケアも例外ではないのですが、主用な所はおさえている印象です。
分包タイプで鮮度を保てるのもいいところ。
4.JPスタイル ダイエティクス
(ペットライン社)
またまたペットライン社です。
こちらも国産です。
あまり種類は多くありませんが、国内での疾患の発生件数をベースにラインナップをそろえられているとのこと。
こちらも分包タイプ。
5.ラボライン ピュアプロテイン
(動物アレルギー検査社)
あまりなじみのない会社だと思いますが、動物病院が検査を依頼する会社さんです。
対象疾患はアレルギーのみですが、非常に豊富な臨床データをもっていらっしゃいますし、ガチンコのアレルギー専門家集団が作った療法食です。
チキン・サーモン・小麦の三種類です。
わんちゃんのみ。
6.ファルミナベットライフ
(ファルミナペットフーズ・ジャパン社)
植物由来の酸化防止剤を使用、遺伝子組み換え穀物を使用しないというこだわりの療法食です。
比較的多くのラインナップをもっていますので、ドクターズと並んで第三の選択肢になりやすいかもしれません。
7.スペシフィック
(デクラ社)
イギリスの世界的動物用医薬品メーカーであるデクラさんの療法食です。
スペシフィックはデンマークで作られています。
オメガ脂肪酸をアピールされており、ウェットフードのラインナップが多いです。
割と好きな獣医師さんも多い印象。
8.クリニカルダイエット
(森乳サンワールド社)
森永乳業グループの療法食です。
あまり種類は多くありませんが、派手さのないパッケージに自信を感じます。
わんちゃんのみ。
9.チューブダイエット
(森乳サンワールド社)
こちらも森乳サンワールド社です。
こちらはウェットフード(というか流動食)のラインナップになります。
粉を水に溶かしてつかうような感じで、ロイヤルカナンのリキッドと同様に使用頻度は高く、動物病院でもおなじみです。
ただ、シリンジであげることになりますし、あんまりご家庭向きでもないような気がします。
当院でも飼い主様にお渡しすることはそんなにないです。
10.ベテリナリーHPM
(ビルバック社)
世界でもトップクラスの医薬品販売会社であるビルバック社の商品です。
犬猫の本来の栄養欲求を追求しており、高たんぱく、低炭水化物をウリにしています。
11.サニメド
(グローバル ペット ニュートリション株式会社)
35か国で販売するオランダ発の療法食です。
種類も多く、ホームページで価格に言及されているのは、ある程度継続をする前提の療法食には有難いお話です。
扱っているところもジワジワと増えている印象です。
12.ピュリナプロプラン ベテリナリーダイエット
(ネスレ社)
ネスレ?キットカットの?と思われたかもしれません。
その通りキットカットのネスレさんです。
意外にもめちゃくちゃ力を入れられており、クオリティが高いです。
認知症など珍しいラインナップもあり、独自性が強い印象です。
代表的なものはこれくらいでしょうか。
その他にも海外にはたくさんあるので、また今後増えたり減ったりする可能性は大いにあります。
療法食で一番困るのは海外からの輸入が多く、欠品が生じやすいところです。
当院としても、できるだけ飼い主の皆様にご迷惑とならぬよう、情報は適時に入手するよう努めております。
動物病院向けではない療法食は?
正直、動物病院向けではない療法食については情報があまりなく、書けることがありません。
各社独自に調査しエビデンスをもっているかとは思いますが、詳細は不明です。
【重要】療法食の選び方・使い方
1.不要なのに使わない。
めちゃくちゃ健康ばっちりな子に療法食が必要になるケースはないと思います。
疾患等に合わせ栄養を調整していますので、下手に療法食をあげると却ってよろしくないです。
良いものをあげたいのであればペットショップなどに置いているプレミアムフードから選ぶとよいでしょう。
グルテンフリーっていいの?
余談ですが、最近グルテンフリーやらグレインフリーという言葉をよく目にします。
別に●●フリーの商品が悪い訳ではないのですが、それがイコール良いフードの看板になってしまうのは少し心配です。
穀物もそうですが、全ての食べ物にメリットもデメリットもあると思います。
食事という原点に立ち返れば、原材料の種類というよりは、栄養バランスとその子にあった食事が大切です。
もちろん、●●フリーの商品が合う子もいますので、飼い主様がいろんな側面から検討するのがベストだということです。
困ったら、動物病院でもトレーナーさんでもサロンさんでも、相談するといいかもしれません。
2.獣医師のお勧めしたものを使う
大前提です。
何か疾患があるとはいえども具体的に療法食を食べる必要があるのか、どの療法食にすべきかは獣医師が判断した方が良いです。
あげるべきでない物を選定すると、変にとがった栄養素になるわ、実際に改善したい症状には影響しないわ、いいことがありません。
3.食べないものは相談する
食べないからといってやめてしまうのもよくありません。
薬ではないため、やめたから突然悪化するということもないでしょうが、体を作っているのは毎日の食事なので、継続しないことで治療効果が下がったりすることもあるかもしれません。
前述のようにたくさんの種類があるので、フードを変える選択肢もあるかもしれませんし、そもそも食べさせる方法の指導も動物病院で行っています。
4.定期的に獣医師に診せる
これはお金儲けのためではありません。
何らかの疾患があって食餌療法がスタートしているわけですから、経過観察は絶対必要です。
当然うまくいっていることの方が多いですが、仮に効果が薄ければ別の方法を考えなければいけませんし、別の弊害が出てしまえば方針の転換も必要かもしれません。
それでなくても体の状況は毎日毎日変わっていきます。
療法食は、何も考えずに与え続けるものではないことに注意が必要です。
どこで療法食を買うべき?
個人的には獣医師のお勧めしたものであればどこで買おうが問題ないと思っています。
別に動物病院で買わなくても大丈夫です。(在庫ないこともあるし。)
ただ、使い方は守ってください。
健康な体を目指すための療法食が害悪になってしまえば本末転倒ですからね。
また、使用期限もあるものなので、切れてないかもチェックしましょうね。
健康で長生きする為に
療法食はあくまでもペットフードですが、特殊な場合を想定して作られています。
ご飯ですから、薬のように大きな副作用等の心配がなく安心して使える一方、少なからず治療に影響を与えるものです。
獣医師の適切な指導のもと利用されるようにお願いいたします。
当院でもフード相談はいつでも受け付けておりますので、是非お気軽にお問い合わせください。