【猫の便秘Ⅱ】自宅でできる3つの猫の便秘解消法と動物病院の治療【獣医師解説】

ということで猫の便秘第2回です。(第1回~原因編~はこちら

今回は自宅でできるケア、動物病院で行う治療について書いていきたいと思います。

●自宅でできる3つの猫の便秘解消法

早速解消法から。

1.オリーブオイルによる猫の便秘解消法

猫にオリーブオイルを与えることで、便が滑りやすくなるため、便通が良くなる場合があります。
オリーブオイルのオレイン酸という一価不飽和脂肪酸が、腸の蠕動運動を促進し、排便をサポートしてくれるからです。
しかし、便秘が慢性化している場合や現時点で腸内に大量の硬い便塊が停留している場合は、その効果はあまり期待できません。

また、オリーブオイルを与えすぎると、逆に、下痢を引き起こしてしまうことがあるので、注意が必要です。
まずは、スプーン1杯程度から始めましょう。
肉や魚の脂肪分といった脂質も硬くなった便の滑りをよくし、排出を促す作用があるといわれています。

2.マッサージによる猫の便秘解消法

お腹をマッサージすることにより、筋肉が緩み、便意が促進するといわれています。
しかし、いきなり体をモミモミされると人間でもびっくりします。
したがって、まず、頭を撫でるところから始め、嫌がらず気持ちよさそうにしていたら、徐々に、頭から背中を優しく、首から尻尾の方向に向かって撫でていきます。
猫がリラックスしたら、脇腹を撫でる程度からゆっくり優しく揉みます。
手を前後に動かしながらお腹全体を揉むことで、腸を刺激することができます。
ただし、力が強いと猫が嫌がってしまうので、優しく触れるように揉みましょう。
猫が嫌がらず、リラックスして、さらにお腹を出してくれるようであれば、お腹を腸の形に似た「の」の字を描くように手を動かして撫でます。
猫を仰向け姿勢で抱え、おへそを中心にゆっくり30秒ほど撫でてください。
もちろん、強く押すのではなく、猫が嫌がらない程度の力で手を滑らせるように優しくなでてください。
「の」が難しい場合は、お腹の上から下へ優しくマッサージしてあげてください。

しかし、全ての猫が容易にマッサージさせてくれるわけではありません。
頭や背中は撫でさせてくれるけど、抱っこできない、あるいはお腹付近はどうしても嫌がってマッサージできないという「マッサージ嫌いな猫」もいます。
中には、体を触られるだけでも嫌がる猫もいます。
では、マッサージを嫌がる猫の場合はどのようにすればいいか?
この場合は、無理をせず、手でお腹にそっと触れるところから始めてみましょう。
無理をすると、病気やケガを引き起こす可能性もあります。
どうしても無理な場合は病院に連れて行きましょう。

3.猫の便秘解消に効果があるといわれているツボ

ツボ押しも効果があるといわれています。
ただし、体を触られることを嫌がる猫には無理に行わないようにしましょう。
腰骨と背骨が交差する百会(ひゃくえ)をいうところ、あるいは前足のちょうど手首の部分に該当する肉球(手根球)の付近にある神門(しんもん)というところを、指で優しく20~30秒間押し、刺激します。
百会と神門は、腸の働きを良くする効果があると言われています。
また、猫の尻尾の先端には尾端という便秘のツボがあるため、尻尾の根元から先端に向かって、軽く揉んであげると、下腹部が刺激され、排便を促進する可能性があります。
ただし、この部位を痛がる場合は、変性性腰仙椎狭窄症という病気の可能性があります。
その場合は、病態を悪化させる恐れがあるため、無理に行わず、動物病院を受診しましょう。

マッサージやツボ押しを行う際のポイントとしては、猫がリラックスしていることを確認した後に行う、もし嫌がるようであれば必ず中断することです。
なぜなら、一度、マッサージやツボ押しを「嫌なこと」と猫が認識してしまうと、その行為自体ができなくなる場合があるからです。

上記の自宅でできる解消法に効果がない場合や便秘の症状が何日も続く場合、また、元気・食欲がなくなるなどの一般状態の悪化がみられる場合には、すぐに動物病院を受診しましょう。

●猫の便秘時の動物病院での検査

  • 触診(腹部や骨盤など)
  • 便検査(異物片や寄生虫などのチェック)
  • 血液検査(脱水など全身状態のチェック)
  • レントゲン検査・超音波検査(骨盤腔や腹腔内の異常、便秘の程度などをチェック)

●猫の便秘の治療

動物病院では、便秘の原因を診断した上で、浣腸や緩下薬の投与のほか、「摘便」という肛門から便を手や器具を使って掻き出す処置などが行われます。
これらの治療により、便秘が解消された後は、食事療法、緩下剤の内服、積極的な飲水、環境整備などで再発の防止を行います。
また、便秘の原因が明確な場合は、その原因に対する治療を行います。
たとえば、肛門や直腸の炎症、骨盤の骨折などの痛みが原因で便秘になっている場合は、それらの治療をすることで便秘の改善を図ります。

●猫の便秘治療にかかる動物病院の費用は?

治療費に関しては、便秘の状態や全身の状態によって、変わってきます。
便秘が軽度な場合は、浣腸や摘便といった処置費で1,000~2,000円程度ですが、必要に応じて、検査費1,000~10,000円程度(便検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査など)がかかります。
全身の状態によっては、点滴や注射、内服薬の処方などの費用1,000~5,000円がさらに加わります。
もちろん、診察費や入院費は、別途かかってきます。
また、便秘の原因が明確ならば、その治療に対する費用が必要になってきます。

「いつか治るだろう」と自宅で様子を見続けるのは禁物です。
便秘を長期間放置し続けていると、腸内に便がどんどん溜まってしまい、大腸の一部である結腸が巨大化してしまう「巨大結腸症」になる恐れがあります。

巨大結腸症になると、さらに便が出づらくなります。
結腸内に長い間停留した便は、硬化し、大きな「糞石」になってしまうことがあります。
このような状態に陥ってしまうと、肛門からの排泄は困難なため、腸を切除し、糞石を取り除く外科手術という大掛かりな事態になってしまうこともあります。

●猫の便秘の予防

まず、はじめに、猫が積極的に水分を取れるように環境や食事内容を工夫することが大切です。
次に、便秘の原因となるストレスや運動不足や毛玉を排除しましょう。

水分不足にならないように
  • 水をこまめに交換し、常に新鮮な水にする。
  • いつでもどこでも水が飲めるように水入れを置く場所を増やす。
  • 流水を好む猫もいるので、水道の蛇口から直接与える。
  • ぬるま湯が好きな猫もいるので、ひと肌程度の温めた水を与える。

以上のような対策をしても、水をあまり飲まない場合は、猫用のミルクやスープ、あるいは鶏肉のゆで汁を与えてみるのも一つの方法です。
1日あたりの水分摂取量の目安は、体重1㎏あたり約50mlとされています。

食餌と一緒に水分を摂取できるように
  • 水分を多く含んだウェットタイプやスープタイプのフードを与える。
  • ドライタイプのフードをふやかす。
運動不足の解消
  • キャットウォークやキャットタワーを活用する。
  • おもちゃなどを活用して、一緒に遊んであげる。
ストレスを減らす
  • 静かで人目に触れない落ち着けるトイレ環境に整える。
  • いつもトイレをきれいな状態にする。
  • 生活環境の変化を避ける。
腸内の毛玉のつまりを予防する。
  • くしやコームでこまめにブラッシングをして抜け毛を取り除き、猫がグルーミングで飲み込む毛の量を減らす。
  • 猫草を与える。

特に換毛期はいつもより念入りにブラッシングを行いましょう。
猫草とは食物繊維を多く含んだイネ科の植物で、猫が飲み込んだ胃内の毛玉を吐き出しやすくする効果があると考えられています。
ただし、猫草は消化しにくいため、便秘時に与えると、便秘を悪化させる恐れもあるためご注意ください。

優しくマッサージ
  • よく撫でてあげる。

猫の首から尾の方向に向かって背中を優しく撫で、さらに腹部を優しく円を描くようにマッサージしてあげましょう。
マッサージにより、腹部の筋肉が緩み、そして腸が刺激され便意が促されます。
慢性化していない軽い便秘の場合には、効果的な方法です。
ただし、腹部を触られることが嫌がる場合は、無理に行わないようにしましょう。

つまり、日ごろの猫のお手入れをいつもより丁寧にしてあげることが便秘の予防・対策につながります。
特に、老齢猫は、排便時、上手に力めず、便秘になりがちなので注意が必要です。

●フードによる猫の便秘の予防

腸の動きを促進するため、食物繊維が適度に摂れる食事内容にしましょう。
食物繊維は腸の働きを活発にし、腸内環境を整えて排泄を促す働きがあります。
食物繊維の中でも、可溶性食物繊維は便をやわらかくして排便を助ける働きがあり、また、不溶性食物繊維は水分を吸収して便の量を増やし、腸を刺激してスムーズな排便を促す働きがあります。
ただし、不溶性食物繊維は、過剰に摂取した場合、水分を吸収しすぎて、かえって便秘を悪化させてしまうことがあるため注意が必要です。
フードを切り替えるときは、今までのフードに少しずつ新しいフードを混ぜて、一週間以上かけて徐々に切り替えましょう。
急にフードが変わったりすると、フードを食べなくなることがあります。
また、急な食事変更はストレスにも繋がりますので注意しましょう。

●「ちゅーる」による猫の便秘の予防

ちゅーるは、猫が喜んで食べるおやつで、水分含有量がウェットフードより多い食事です。
そのため、水を飲むことをあまり好まない猫やドライフードを主食としている猫にとっては、無理なく水分を補給することができるため、便秘の改善や予防に役立つ場合があります。
しかし、ちゅーるを与える際は、その日の総摂取カロリーや、栄養バランスを考慮する必要があります。
与え過ぎは、肥満や下痢の原因にもなるため、猫の年齢や健康状態に合わせた適切な量を与えることが大切です。

●猫は便秘で死ぬ可能性があるか

猫の便秘を放置すると、もちろん死に繋がりますので注意してください。
排便困難だけでなく、体内に便が長期にわたって、停留することによる様々な二次的な病態に陥るからです。
元気消失、食欲不振、嘔吐、呼吸困難、重篤な場合には敗血症を引き起こすことがあり、最悪の場合死に至ることもあるので安易に考えてはいけない病気の一つです。

●最後に

便秘を決して甘く考えてはいけません。
重症化すると手術が必要になることも、また最悪、死に至ることもある怖い病気です。
したがって、飼い主さんは、猫の異変にいち早く気づき、そして対処できるようにしましょう。

つきましては、今回、紹介いたしました原因や症状、予防、そして解消法が、飼い主様に少しでもお役に立てれば幸いです。

便秘は早期に対応ができればすぐよくなることも多いです。

気になる症状がありましたら、お気軽にご来院くださいませ。