愛犬にこんな様子はありませんか?【甲状腺機能低下症】

今回のコラムは甲状腺機能低下症について…
愛犬にこんな症状はありませんか?
「おとなしく、静かで、よく寝ている」
「若いのに、なんか老けてない?」
「悲しげな顔に見える」

心当たりがあれば、
あなたの愛犬は、甲状腺機能低下症になっているかもしれません。
この甲状腺機能低下症という病気は発症していても、その症状がはっきりしません。
そのため、「体に隠れている病気」とも言えます。

甲状腺機能低下症とは

甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが不足することで起こる病気です。
甲状腺ホルモンは、全身の代謝を調整する機能を担っています。

よって、甲状腺機能低下症になると、
エネルギーの産生、タンパクや酵素の合成、炭水化物や脂質の代謝などの機能が低下し、
そして様々な症状が現れます。

また、甲状腺ホルモンの分泌は、脳から分泌されるホルモンによりコントロールされています。
そのため、甲状腺自体の機能が正常でも、司令塔である脳に問題があると甲状腺機能低下の症状がみられます。
ちなみに、甲状腺という臓器は、甲状軟骨(喉ぼとけ)のすぐ下に、左右1つずつあります。
(ヒトも首にあります。)

甲状腺機能低下症の症状

【犬の甲状腺機能低下症の症状チェック:代表的な症状】
□元気の消失

元気がなくなり、活動量が低下する。すぐに疲れるなど。立ち上がるのを嫌がることも。

□脱毛などの皮膚症状

皮膚の新陳代謝が悪くなり、かゆみを伴わない左右対称性の脱毛や尻尾の毛が薄くなる。皮膚が黒っぽくなったり脂っこくなったり、フケが増えたり、皮膚病が治りにくくなったり。

□悲観的顔貌

顔がむくみ、まぶたが腫れ、悲しそうな顔の感じに。

□嗜眠(しみん)

寝ているようで、強い刺激を与えないと覚醒しない。(覚醒してもすぐまた眠ってしまう)

□肥満傾向

食べる量が変わっていないのに太る。

□神経症状

頭が斜めに傾く、うまく動けずふらつく、同じところを1方向にぐるぐる回る、足を引きずる、けいれんなどの発作、顔面の麻痺

□その他の変化

心臓の動きが悪くなり、心拍数が減る。不整脈。体温が下がる。

甲状腺機能低下症の診断

一般的に血液検査で診断します。
血液中の甲状腺ホルモン値の低下と甲状腺刺激ホルモン値(脳下垂体から分泌している)の増加が
みられます。

画像検査(レントゲン、超音波、CT、MRI)によって、甲状腺の委縮を確認できることもあります。

注意が必要なのは、甲状腺自体の機能に問題がなくても、
見かけ上、甲状腺ホルモン値が低くなることがあることです。
それは、甲状腺以外の病気(感染症、クッシング症候群、糖尿病、悪性腫瘍など)や薬の影響でも低下する場合があるからです。
そのため、他の病気がないか検査で確認する必要もあります。

甲状腺機能低下症の治療

内科的な治療がメインになります。
不足している甲状腺ホルモンを補うため、甲状腺ホルモン製剤を投与します。

ただし、甲状腺の機能自体を回復させることは難しいため、基本的には生涯、
甲状腺ホルモン製剤を飲み続ける必要があります。
甲状腺ホルモン製剤の投与量は、それぞれの個体により違うため、定期的に血液検査を行い、
過不足がないか甲状腺ホルモン値を確認し、適正な量をコントロールします。

投与量が少なすぎれば効果は出ませんし、逆に多すぎれば甲状腺機能亢進症になってしまいます。
適正な量のホルモン製剤を投与し続ければ、予後は良好です。

改善に要する期間は、病態の進行具合や個体の体質により、様々で数週間~数か月です。
数週間で元気になり、脱毛についても数か月である程度改善が認められるようになります。

他の病気からの二次的な甲状腺機能低下症の場合は、原因となる病気を治療すれば、甲状腺ホルモン値が改善する可能性があります。
その場合、甲状腺ホルモン製剤を投与していると過剰になる可能性があるため、注意が必要です。

甲状腺機能低下症の治療費

血液検査費用は15,000円~20,000円程度です。
治療薬の値段は犬の体格、ホルモン製剤の量、動物病院の価格設定により異なりますが、月5,000~15,000円程度かかることが多いです。
定期的に行う血液検査の費用は8,000円~15,000円程度かと思われます。

犬の甲状腺機能低下症の原因

・甲状腺の萎縮・・・ほとんどがこのタイプ(原発性甲状腺機能低下症)
甲状腺炎、免疫疾患、甲状腺腫瘍、原因不明などによって甲状腺の組織の破壊が生じます。

・脳下垂体や視床下部の異常・・・非常にまれなタイプ
脳下垂体や視床下部(脳内にある甲状腺を刺激するホルモンを出す臓器)の腫瘍や外傷など
によって生じます。
脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量が少なると、甲状腺の機能が正常でも、
甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまいます。
脳の視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌量が少なくなると、
甲状腺の機能が正常でも、甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまいます。

【甲状腺ホルモン分泌までの流れ】
視床下部(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)・・・一次司令塔
     ↓刺激
脳下垂体(甲状腺刺激ホルモン;TSH)・・・二次司令塔
     ↓刺激
甲状腺(甲状腺ホルモン)

甲状腺機能低下症にかかりやすい犬種や年齢は?

トイプードル、ミニチュアシュナウザー、ビーグル、シェルティ、柴犬、
アメリカンコッカースパニエルが発症しやすいと言われています。
5歳以上での発症が多いといわれていますが、幅広い年齢で発症します。

甲状腺機能低下症を予防するには

残念ながら有効な予防はありません。
そのため、早期発見、早期治療が大切です。
元気がない、動きたがらない、たくさん食べていないのに太ってくる、かゆみのない左右対称性脱毛、皮膚病が治りにくいなど、気になる症状があれば早めに動物病院を受診してください。

定期的に、健康診断として血液検査を受け、甲状腺ホルモン値を確認すると早期発見に繋がります。

最後に

甲状腺機能低下症は、これといった特有の症状はありません。
そのため、見逃されることが多いです。
愛犬が高齢になると、元気がなかったり、動きたがらなかったりしても
「年のせいかな?」と様子を見てしまいがちですが、
実は、甲状腺機能低下症になっている可能性があります。

そのまま、何もしないでいると、病態が進行するにつれ体力が落ちて、
老化が早くなったような状態になり、死を迎えてしまいます。
甲状腺機能低下症は、放っておいて、自然に治る病気ではありません。

しかし、甲状腺機能低下症は、適切に診断や治療が行われれば、予後は良好な病気です。
治療を始めると、元気が出て、動きもよくなり、若返ったように感じることでしょう。
でも、実際は若返ったのではなく、本来の年齢に戻っただけなのです。
それだけ、老けて見えていたということです。
定期的に動物病院で受診し、気になる症状があれば相談しましょう。
早期発見、早期治療が何よりも大切です。

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