動物病院から「帰ったあと」に気をつけること【獣医師監修】

楽しく通院してほしいのは山々ですが、どうしても予防接種や採血で苦手なイメージが付きやすいのが、動物病院です。
多くの動物が興奮して熱や呼吸数が上昇してしまいます。
そんな状態で帰宅することになるのですが、家についた後にトラブルがおこることもあります。「転嫁行動」と言われる、八つ当たりをご家族にする場合です。
病院に連れて行ったご家族でなくても、「不本意な目にあった」という気持ちをぶつけることがあります。その対象が、子どもだったり、同居動物だったりしたときに、問題になります。

先にご理解いただきたいのは、性格に問題があるから転嫁行動するわけではありません。
自分で抱えきれない不本意さをどこかで発散させないと、動物としては困ってしまいます。
問題はその発散方法が過激だったり、対象が家族だったりすることです。

やってはいけない事

・叱る・叩く

これは不正解です。エスカレートしたり、人が大けがをしたりする可能性があります。絶対にやめましょう。

・すぐに外出する、放置する

帰宅後は付かず離れずくらいが丁度です。
動物を家に連れ帰って、すぐに外出だと、その後に起こったことに気づくのが、外出先から帰ってからになります。
また「喧嘩しているけれど、すぐ落ち着くだろう」といった様子見もやめましょう。

喧嘩していたら怪我をする前に距離を取らせてください。動物同士の喧嘩の仲裁は、毛布などを被せて行います。直接手や足を入れてしまうと、人が怪我をしてしまいます。

・寄り道する

寄り道が発散やご褒美になるようなら、構いません。しかし、外出が得意でない子の寄り道は、嫌な時間の延長になってしまいます。病院で使った分のキャパに上乗せして、ストレスをかけないようにしましょう。

知っておいてほしいこと・やってほしいこと

・恐怖や怒りのサインを理解する

「可能な限り、不都合のある形で発散させないこと」が大前提です。一度喧嘩したり、攻撃したりする「経験」があると、今後の困ったときの選択肢にそれが加わります。「嫌な思いをした・不本意だった=以前と同じ対処法を試してみる」ということになります。おそらく、回を増すごとにエスカレートするでしょう。まずは経験させないこと、不都合な状況を避ける事です。
その上で知っておいてもらいたいのが、彼らのボディーランゲージです。人のしかめっ面と同じで、ご機嫌がよくないサインを把握しましょう。

犬と猫の「OK]「NG」サイン

写真のように、耳を後ろに引き、鼻に皺が寄って、歯を見せ、瞳孔が散大しているといった顔は、基本的にお触りNGです。

少し脱線しますが、猫のゴロゴロは必ずしも「ご機嫌」サインではありません。明らかになっていないこともありますが「現状維持で!」という意味があるようです。主にはご機嫌なときですが、子猫が母乳を飲んでいる時、病院で採血したときなど、「ちょっとこのままで!」や「これ以上はやめて」というニュアンスで用いる猫もいるようです。

・ストレスを減らす通院スタイルをとる

ストレスの少ない通院アイデアはいくつかあります。ここでは、一般的なことをご紹介しますが、特に猫ちゃんの場合の工夫は、べつのコラムにまとめています。猫ちゃんも病院へ!ストレスの少ない通院方法を知ろう!をご参照ください。

〇空腹の状態で好物を持っていく

オヤツが食べられるようなら、与えましょう。食べ物を飲み込んだりすると、副交感神経(リラックス時に働く神経)が仕事をします。注射は筋肉が強張っていると余計に痛いので、オヤツを使って緊張を和らげてあげると良いです。また、使用するオヤツはペースト状のものがおススメです。咀嚼が必要なものは食べにくいため、舐めて飲み込めるものを用意してあげてください。(特別好きなものがあるなら、形状に関わらずそれにしてください)

〇一気に色々とやろうとしない

病院のために時間をさくのは大変な事ですよね。しかし、ワクチンして、採血して、耳の処置をして、爪切りと肛門腺しぼりと毛玉のカットと…となると、キャパオーバーな子もいます。獣医師と相談して、分けてできる処置や検査は次回にしてあげましょう。キャパには個人差がありますし、それを把握して守ってあげることも大切です。

イライラの原因は通院以外にないか?

自分の気持ちを言葉で訴えられないので、中々気づかれないこともあります。通院以外の他の原因がないか、しっかり見てあげましょう。

テリトリー・食べ物・おもちゃを守る行動


家の前を通った他動物に対して、自分のテリトリーを主張する、ごはんやおもちゃを取られたくなくて怒る子もいます。そういったタイミングが通院後に重なったということもあります。自分のテリトリーに他の動物が入ってくるのが見える、気に入っているゴハンやおもちゃを取られる、といった出来事は、私たちでも気持ちよくありません。日常的にこういった出来事は避けましょう。生活範囲から野良の動物が見える場合は、カーテンや柵で目隠しをしてください。おやつやおもちゃに気が向いているときは、触らずに別のもので気を引き、その後気が逸れたタイミングで回収するようにしてください。トレーニングの一環として「ちょうだい」「離して」の練習をしておくのも良いです。

基礎疾患から行動が誘発される場合

病気の中にもイライラの原因があることもあります。痛みや不安は、転嫁行動のきっかけになります。例えば、甲状腺疾患や高血圧ではイライラします。注射の接種部位の痛みや関節炎などで、局部に当たって反射的に口がでることもあります。また、自分の体調不良など不安に感じることでも、思いつめてしまうこともあります。
イライラの原因が体調不良でないかは、病院に相談して解決しましょう。

クールダウンの時間をとる・すぐに触らない・抱っこしない

人間でも衝撃的なことがあった後は、一人になって気持ちの整理をしたいこともありますよね。すぐに抱っこしたりせず、キャリーのドアを開けたら自分で出てくるまでは、そっとしてあげます。出てきた後も自分から寄ってくるのを待ちましょう。ワクチンの後などで、様子を見る必要がある場合は、距離をとって観察します。猫ちゃんがキャリーに引きこもった時などは、キャリーを少し高いところに置いてあげてください。飼い主様とはいえ、至近距離でキャリーをのぞき込んでくる人間は、巨人や宇宙人のように見えるそうです。自分にしてみたら怖いですよね。私たち病院スタッフも配慮が必要な所です。

同居動物とすぐ対面させない

実は帰宅後の動物とお留守番の動物は、お互いがお互いに喧嘩を売る理由があります。病院に行った動物は、転嫁行動として手を出します。留守番した動物は、動物病院の「匂い」を付けて帰ってきた動物を侵入者と勘違いして、手を出すことがあります。人間は見た目で人を区別しますが、動物は匂いで区別します。「匂いとテリトリー」は彼らにとってそれだけ重要だと思ってください。同居動物と会わせるときは、キャリーのドア越しやドアの隙間から会わせるようにしましょう。

喧嘩の素振りがあったら…
もし、どちらかの手が出る、唸るなどの素振りがあったら、部屋を分けておきます。1-2時間程度で、家の匂いに馴染んだら、もう一度対面させてみます。匂いをしきりに確認しているようなら、同居動物の匂いのついた毛布やぬいぐるみを擦りつけて、同じ匂いにしてみましょう。

以上が動物病院から帰ったあとに、気をつけたいことです。動物のキャパはそれぞれです。大げさに見えるようなことでも、思った以上にストレスを抱えている場合もあります。様子を見ながら対応していきましょう。