【獣医師解説】 猫の膀胱炎について、知っておくべき10のこと!

あなたのネコちゃんにこんな症状は見られませんか?

  • トイレに何回もいく
  • トイレからなかなか出てこない
  • おしっこが少ししか出ない
  • おしっこに血が混じっている
  • 明らかに血尿
  • トイレ以外の場所でおしっこをしてしまう
  • 陰部を気にして舐める

このような症状がみられれば、あなたの愛猫ちゃんは膀胱炎になっているかもしれません!

そこで、「まさか!うちの愛猫ちゃん、膀胱炎になっているかも?」と、不安に感じられたりする方のために、“猫の膀胱炎”を10個のポイントに整理し、分かりやすく説明します。

膀胱炎とは

膀胱炎とは、一般的に、様々な原因により、膀胱(おしっこを貯める器官)内が炎症を起こした状態のことを言います。

何故、猫は、膀胱炎になるのか?

それは、猫の祖先にさかのぼります。
猫の祖先は、水の少ない砂漠に住んでいたため、水をあまり飲まなくてもいい体質でした。
それが受け継がれ、現代の猫もあまり水を飲まなくても大丈夫な体質です。
この体質が、猫が膀胱炎になりやすくしているのかもしれません。
なぜなら、水をあまり飲まなければ、おしっこが少なくなるからです。
つまり、おしっこが少ないということは、尿が膀胱内に留まっている時間が長くなっているということです。
そうすると、尿が濃縮し、濃くなってしまいます。

このような膀胱内の環境は、細菌の増殖や結石の形成に非常に優位に働きます。
たとえば、膀胱内に細菌が感染した場合、細菌がおしっこで体外に排泄されず、膀胱内に留まることになります。
そうすると、細菌は増殖し、仲間をどんどん増やせます。
また、尿中に結石の元になる結晶が含まれていた場合、結晶がおしっこで体外に排泄されず、膀胱内に留まることになります。そうすると、結晶はどんどん大きくなり結石になってしまいます。

猫の膀胱炎の原因は?

正直言って、猫の膀胱炎の原因は様々です。
「感染症」、「尿石症」、「癌」、「過度なストレス」などが一般的に膀胱炎の原因と考えられますが、実は、その中で最も多い原因は、“ストレス”だといわれています。 これを特に「ストレス性膀胱炎」と呼ぶこともあるくらい多いです。
猫の膀胱炎の原因の一つである感染症に関しては、細菌によるものが多く、その中でも大腸菌による感染が80%です。
その他では、ブドウ球菌やセラチア菌などによる感染が挙げられます。
長い間、おしっこを我慢したり、疲労や風邪などの体調不良で免疫力が低下したりなどの理由で、膀胱内に細菌が入りこみ、そして膀胱炎へ進行していきます。

ストルバイト結晶は、膀胱の粘膜をチクチクと刺激し、膀胱炎を誘発します。

猫の膀胱炎の種類

猫の膀胱炎は、病態によって、大きく分けて、2種類です。
それは、細菌感染が関係している「細菌性膀胱炎」と、細菌感染が関係していない「無菌性膀胱炎」です。

特に、無菌性膀胱炎は、特発性膀胱炎ともいい、原因がはっきり分からない膀胱炎を指します。
実は、この特発性膀胱炎は、非常に多く、猫の膀胱炎の大半を占めます。
特発性膀胱炎、いわゆる無菌性膀胱炎とは、書いて字のごとく、細菌が関係しない、つまり、細菌の感染が原因ではない膀胱炎ということになります。 
「細菌が感染しなくても膀胱炎になるの?」とあなたは疑問に思われるでしょう。
猫の場合は、不思議なことに、細菌感染がなくても、ストレスや水分の摂取不足などが原因で膀胱炎になってしまいます。

そこで、特発性膀胱炎の特徴としては、“細菌性膀胱炎とは違い、尿の中に細菌や結晶が見られない”、“比較的、若い猫で多く発症する傾向がある”などと言われています。
また、特発性膀胱炎は、原因は分からないまでも、要因の一つにストレスが強く関与しています。
よくあるストレスとしては、“オシッコするのに落ち着かない場所にトイレがある”、“トイレが汚れている”、“トイレが狭く、小さい”などが挙げられます。

膀胱炎の症状

猫の膀胱炎の症状として、細菌性、無菌性に関係なく、「トイレに何回も行く、トイレでずっと力んでいるなどの頻尿」や「オシッコに血が少し、または一様に混じるなどの血尿」などが認められます。
他に、「排尿痛」、「尿しぶり」、「尿失禁」などが見られることもあります。
また、付随して、「発熱」、「食欲がない」、「元気がない」などの一般症状も認められることが多いです。

膀胱炎の検査

「尿検査」、「レントゲン検査」、「超音波検査」、「細菌培養」、「血液検査」が一般的ですが、その他に、造影検査、細菌培養、CT、MRIなどが必要となる場合もあります。

猫の膀胱炎の治療

猫の膀胱炎の治療に関しては、“不快感や痛みを緩和する”、と “生活環境を改善する”を基本とし、原因が分かっている場合は、その原因に対する治療を行います。

細菌性膀胱炎は、基本的に細菌感染によるものです。
よって、細菌が原因となっていることから、主に抗生剤よる治療を行いますが、症状に応じて治療していくのが一般的です。
「血尿が認められれば止血剤」、「頻尿が認められれば消炎剤」、「発熱が認められれば解熱剤」などを抗生剤と併用して治療していきます。
さらに、膀胱炎の治療補助として、「水を飲ませて、おしっこをいっぱいさせる」、「体を温める」、「トイレ環境を清潔にする」などを行う必要があります。

特発性膀胱炎に関しては、細菌性膀胱炎とは違い、細菌の感染がみとめられないので、抗生剤を投与する必要がありません。
抗生剤、消炎剤、ステロイド、止血剤などで治療される場合もありますが、効果は証明されていません。
仮に、この治療で症状が改善した場合、「薬の効果なのか」、それとも「自然治癒したのか」のどちらであるか断定することは困難です。
つまり、治療法は確立されていないため、何をやっても奏効しませんが、無処置でも、おおよそ数日くらいで改善してしまうのが実状です。

また、細菌性や特発性に関係なく、“猫の膀胱炎が自然に治る”こともあります。
病態にもよりますが、猫の自己治癒力が関与し、自然治癒に至ったのでしょう。

しかし、すべてがそのような経過をとるわけではありません。
自然治癒を期待し、積極的な治療をしない場合、自然に治るか治らないか分からないでいる間は、猫は不快で苦しい思いをしてしまいます。
仮に、数日で症状が治まっても、再発することがしばしば見られます。
だから、自然に治癒することを期待せず、なるべく早く治療をしてあげることが非常に重要です。
仮に自然治癒したとしても、繰り返し発症するような場合は、治療に並行して、ストレスの軽減、トイレなどの環境改善、水分の摂取増加、療法食またはサプリメントの使用などの対策も必要になってくるでしょう。

また、特発性膀胱炎は、その要因として、ストレスが強く関与していると言われているので、その「ストレス」のもとを探し、そして改善することが治療の助けになります。
したがって、「来客」、「食事の変更」、「トイレの環境」、「室温の変化」、「膀胱炎以外の病気」など、考えられるストレスを改善しましょう。

猫の膀胱炎の治療までの流れ

動物病院を受診後、問診、触診など行います。
特に、猫のお腹を念入りに触り、膀胱の状態を確認します。
必要に応じて、レントゲン検査、超音波検査で膀胱の状態(膀胱の形、膀胱内の状態、結石の有無等)をさらに詳しく調べます。
尿を採取できた場合、尿検査(尿の性状、尿の沈査、および尿の比重)で、潜血の有無やPH(酸性かアルカリ性か)、尿結晶や細菌の有無などを調べます。
検査結果を総合的に判断、あるいは原因を特定し、膀胱炎を診断していきます。
治療は、膀胱炎の原因に応じて行いますが、膀胱炎の病態によっては、手術や入院が必要となってくる場合があります。

膀胱炎の検査費用

尿検査・・・1,000円前後
レントゲン検査・・・・4,000~10,000円
超音波検査・・・5,000円前後
CT、MRIなどが必要となる場合は、検査費用にプラスして麻酔費用がかかります。よって、数万円からと非常に高額になります。

膀胱炎の治療費

猫の膀胱炎に限らず、“膀胱炎の治療にかかる費用”は、その原因や症状によって変わってきます。
つまり、使用する薬や投与法、治療期間の違いから変わってくるということです。
重症の場合には、治療期間も長くなりので、その分、当然、治療費も高くなってしまいます。
症状が軽い場合で、抗生剤の飲み薬を1週間分だけなら、5,000円前後が一般的です。
しかし、1回あたりの膀胱炎の治療費は10,000~15,000円を目安にしておくと良いでしょう。
また、手術や入院が必要になった場合は、100,000円以上になることもあります。
膀胱炎の他に、ストルバイト結晶による尿道閉塞が併発している場合は、さらに費用がかかってしまう可能性があります。

膀胱炎の治療期間

よく耳にするのが、猫の膀胱炎は、“薬を飲んでどのくらいでよくなりますか?”、または“ 何日で治りますか?”という質問です。
それは、病態や症状の重軽度や猫の体質により変動はしますが、細菌性膀胱炎の場合、抗生剤においては最低2週間投与します。
その後、症状の改善の有無や尿検査などの検査結果を総合的に判断し、治療を継続するか、終了するかを決定します。

しかし、慢性化しているものは、通常より、治癒に時間がかかるのが通常です。
細菌性膀胱炎の場合なら、抗生剤などを投与しますので、治療期間のおおよその目安はありますが、「猫の特発性膀胱炎」の治療期間に関しては、はっきりしたことは言えません。
なぜなら、ストレスなどが関与し、治療期間という前に、完全に治す自体が難しい病気だからです。
したがって、おおよそ目安が分からないのが実状です。

膀胱炎の再発

猫に限らず、細菌性膀胱炎は治療しても、再発してしまうことが多い、いわゆる“繰り返す病気”です。
再発する原因として、原因菌と使用している抗生剤との相性が悪い場合は、回復に向かっても完治には至らず、再び症状が現れてくることがあります。

その他の原因として考えられるのは、薬の効きが悪い、再発しやすい生活習慣、背後に基礎疾患が隠れているなどが挙げられます。
したがって、再発を繰り返す場合は、さらに詳しい精査が必要になります。

膀胱炎の予防

どんな病気でも絶対的な予防法はありませんが、猫の膀胱炎の予防で、一番大切なことは、“水をたくさん飲ませる”ことです。
水を飲ませる工夫としては、「冷たい水、温かい水、新鮮な水、くみ置きの水、蛇口からの水など、どのような水が好きか」、「ステンレス製、プラスチック製、陶器製、人の手など、どのような水飲みの容器が好きか」、「静かな場所、温かい場所、高い場所、人の横など、どうような場所で飲むのが好きか」など、それぞれの猫に合った飲み方を探しましょう。また、運動量を増やすのも、水を飲ませるのに効果的です。

さらに、“ストレスの改善”にも注意を払いましょう。
運動不足がストレスになっているのであれば、キャットタワーなどを設置し立体的な飼育環境にしたり、人が相手になっておもちゃで遊んであげたりしましょう。
また、飼育環境がストレスになっている場合、“急な温度変化”、“多頭飼育”、“トイレ”などのストレスが考えられます。
その中でも、特に、トイレ環境は、猫にとてもストレスを与えやすいです。
よって、常に、猫が落ち着けるトイレにしてあげましょう。

落ち着けるトイレとは、「ゆったりとした大きさであること」、「好きな猫砂であること」、「猫砂の量が十分であること」、「清潔であること」、「邪魔されない静かな場所であること」、「多頭飼育の場合、十分な数があること(理想的なトイレの数は猫の頭数+1個)」と言われていますが、その猫に合ったトイレにしてあげることが何より大切です。
このような予防も大切ですが、最も重要なことは、日頃から猫をよく観察し、一早く何かしらの異常を見つけることです。
“水を飲む量”、“トイレの使用状況”、“オシッコの状態”、“トイレの仕方”、“元気食欲の変化”、“行動の変化”
などに気をつけ、膀胱炎の早期発見、早期治療を心掛けましょう。

膀胱炎になりやすい猫

膀胱炎になりやすい猫種として、“スコティッシュフォールド”、“アメリカンショートヘア”、“ヒマラヤン”、“ペルシャ”が挙げられます。

また、猫の膀胱炎は、オス猫に比べ、メス猫に多く認められます(尿道がオス猫より、メス猫の方が短いので)。
尿石による尿道閉塞に関しては、オスの猫、肥満猫は、なりやすいとされています。
中でも、“去勢オス猫”に関しては、去勢をしていない猫より、尿道閉塞のリスクが増加するという報告もあります。 
“猫の去勢”は、マーキングの軽減や性格を穏やかにするなど多くのメリットがありますが、尿道閉塞などの泌尿器疾患のリスクを増加させる場合がありますので、注意が必要と言えるでしょう。

最後に

ネコちゃんの膀胱炎は、寒くなるにつれて多くなってきます。
つまり、あなたが「肌寒くなってきた」と感じてきたら、要注意です。
愛猫ちゃんをよく観察してくださいね。

ネコちゃんをはじめ動物は、自分の不調をとても上手に隠します。
一見、元気そうに見えても、実は病気の兆候を隠れているかもしれません。
だから、「ちょっとおしっこの回数多いだけだし…、様子を見よう」と思わないでください。
その間に、膀胱炎は容赦なく進行していきます。
膀胱炎は、一度かかると再発を繰り返しやすく、また、治療が遅れると重症化する危険性が高いので、非常に厄介な病気です。
あなたの愛猫の様子が普段と少しでも違うと感じた場合は、早めに動物病院を受診してくださいね。