動物の歯周病治療の流れと価格【獣医師監修】

前回のコラムで歯周病の怖さをお伝えしてきました。
今回はもっと治療内容について掘り下げてみたいと思います。
前回のコラムはこちら

そもそも歯周病の治療って何をするの?

前回のコラムでは歯周病の治療について全身麻酔が必須であるということはお伝えしたと思いますが、では具体的に何をするのか?というと、ピンとこない方が多いのではないかと思います。
治療と一言でいっても、思いついたその日にパッと出来るわけではありません。
ここでは麻酔前の検査~麻酔当日、処置後までの流れについてご説明します。

麻酔前の検査

全身麻酔は動物にとっても、私たちにとっても大きなことです。
少なくとも麻酔前には、歯周病以外の病気がないか、不整脈がないか、麻酔をかけてもいいのかを検査します。
検査の内容やタイミングは病院によって基準が異なります。
ここでは、一例としてご紹介します。

●問診・身体検査

今ある症状をお話してもらい、体を視て・聴いて・触っていきます。

●血液検査

貧血の検査や、腎臓・肝臓・血糖値などを測定します。
高齢、基礎疾患のある動物には、甲状腺ホルモンや凝固系、その他特殊項目を追加する場合があります。
猫ちゃんの特徴的な歯肉口内炎の場合は、ウイルス検査を追加することもあります。
食事の影響で測定できない項目があるため、8時間の絶食をお願いします。
内服薬を処方されている場合は、獣医師の指示に従ってください。

●レントゲン検査

胸部のレントゲンを2方向から撮影します。
麻酔薬は吸入麻酔を使用することが多いため、肺に問題がないかチェックするために行います。
基礎疾患や問診で気になることがある場合は、腹部の撮影を追加することもあります。
歯周病がかなり重度であることが予想された場合は、顎の骨折が生じていないか見ることもあります。
(歯周病が進行すると顎の骨まで溶け、折れやすくなるためです。)

●心電図検査

不整脈の検査です。
病院では緊張から心拍数が早いことが多く、不整脈が隠れてしまうこともあります。
完全な検査ではないですが、不整脈が観察された際には、麻酔のリスク分類や使用する麻酔薬の変更があるため、実施します。

これらの項目から、麻酔のリスクを判断します。
リスクよりもメリットが大きい場合は、処置に進むことをお勧めします。
ただし、不安がある場合はその解消に努めますので、必ず口に出して相談してください。
術前検査では、10,000円弱程度の費用がかかります。(追加項目によって前後します)

処置日の予約

術前検査で麻酔がかけられる状態だと判断できれば、処置の日程を決めます。
処置当日はお預かりして、お昼に処置を行います。
あらかじめ点滴する場合がありますので、午前中の外来時間でお預かりします。
処置前は12時間の絶食をお願いしています。
(絶飲は処置の3時間前からです。お預かり時間に合わせてお伝えします。)

内服薬のある時、基礎疾患や痩せているため低血糖をおこす可能性がある時は、別の指示がでることもあります。
処置の後、数時間は様子を観察してご帰宅いただきます。

お迎え時間は午後の外来時間(だいたい18:00以降)になります。
処置当日はご家族がお休みの日をお選びください。
可能であれば、処置翌日も体調が万全でないことがあるため、お付き添いできるよう連休が望ましいです。
お預かり時には診察(体調のチェック)、処置内容や同意書の確認、お迎え時には処置の内容のご説明があるため、お時間(15分~30分程度)を頂戴します。

処置の内容

ご家族からお預かりした後は、点滴のための留置針をいれます。
外来が終わったら体重に合わせた麻酔薬を準備して、処置がスタートします。
全身麻酔は、3ステップで行うことが多いです。
まず「前投薬」という薬を前もって入れます。
心拍数の調整や抗不安薬などがメインです。
次に「導入薬」で、完全に寝た状態になります。
呼吸の補助のため、挿管します。(口から管を入れます。)
その後「吸入麻酔薬」で寝た状態を維持します。
十分に麻酔が安定したら、治療開始です!

1.歯周病の評価

歯周病の評価を行います。
歯の本数、乳歯遺残(抜けるはずの乳歯が残った状態)の有無、噛み合わせ、歯周ポケットの深さ、炎症の程度などをカルテに記載します。

2.歯石の除去(スケーリング)

超音波スケーラーという器具を使用して、歯石を除去します。
超音波スケーラーは微細な振動で歯石をはがし、粉砕してくれる器具です。

3.抜歯(必要な場合)

抜歯の必要がある歯を処置します。
抜歯した後に、溜まっている膿などを掻き出し、歯茎で覆われるように縫合します。
(2週間から1カ月程度で吸収される糸です)

4.キュレッタージ、ルートプレーニング

歯周ポケットが深いが、抜歯しなくてもいい箇所は、キュレッタージやルートプレーニングという処置をします。
歯周ポケットの汚れを取り、歯茎が歯にくっつくようにする処置です。

5.研磨

最後に歯のエナメル質を研磨します。
歯石を取りっぱなしにすると、細かい傷から次の歯石が付きやすくなってしまいます。

上記の手順で処置が終わると、麻酔を覚まします。
軽度であれば1時間弱、重度であれば2-2.5時間程度の麻酔時間になることが多いです。

麻酔後~お迎え

麻酔から意識が戻ったら、点滴をしながら痛みのモニタリングをします。
むせずに嚥下ができ、自分の足で立てる状態で、内服薬をお出しして帰宅してもらいます。
お迎え時の費用は、抜歯の本数や麻酔時間によって様々です。

目安ですが、軽度(抜歯なし)であれば30,000~40,000円程度、中程度(抜歯が5~8本)なら50,000~80,000円程度、重度(抜歯が10本以上)では100,000円弱です。

歯周病の処置はやりっぱなしではなく、完治して終了です。
抜歯している場合は1週間後と2週間後、していない場合は1~2週間後の再診に来てもらいます。
デンタルケアの開始時期などは、処置に合わせてお迎え時にお伝えします。

抜歯して、歯が無くなっても大丈夫なの?

抜歯はやむを得ない治療手段です。
残せるなら、自分の歯で噛んで生活した方がいいです。
しかし、犬や猫の消化管は丸呑みした獲物を消化できるように出来ています。
ドライフード程度の大きさなら、噛まずに飲み込んでも問題はありません。
オヤツのガムやおもちゃの種類によっては、制限がかかる場合があります。
代わりの発散方法を用意してあげる必要があります。

全身麻酔って大丈夫なの?

全身麻酔の必要性は理解しても、踏み切れない不安はありますよね。
申し訳ないことですが、どんなに健康な状態であったとしても「大丈夫」「安全」とは言ってあげられません。
体をいつもと違う状態にすることには、リスクがあります。
麻酔科の言葉を借りるなら、安全な麻酔薬も、安全な麻酔法も存在しません。
麻酔管理をする人間だけが、安全意識を持つことが出来る唯一の存在です。
では、安全な人間性とは?おそらく、車の運転と同じです。
専用道路を走っていても、誰かが飛び出してくるかもしれないと思って運転する、模範的なタクシーにみなさん乗りたいはずです。
どんなに健康でも、今までトラブルがなかった動物でも、トラブルに備えることが出来る人間がいる病院で麻酔処置を受けてください。
信用に足る人間性かどうかは、よくお話することをお勧めします。

最後に

歯周病の治療について、何となく伝わりましたでしょうか。
一番お伝えしたかったのは、早目の処置が肝心ということです。
かわいいわんちゃんねこちゃんの歯、当たり前ですが抜歯なんてしたくないですよね。
その為には進行する前にしっかり治療する、そもそも定期的に歯科検診をうけ、デンタルケアをできるだけ行うことが大事です。
綺麗な歯は一日にしてならず。
気になった方はまずは動物病院にご相談を!

※一部無麻酔スケーリングなどのお店もありますが、当院としてはお勧めできるものではありません。
 皆さんも歯が痛くなったりしたら歯医者に行かれると思います。
 人間に歯科医師の資格がない人による歯石取り屋さんがないように歯石取りは「医療」の範疇かと思います。
 歯のお悩みは動物病院にて行われるようお願いいたします。

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